Webサイト制作を行う上で必ず行うディレクション。その役割りを主に担うのが「ディレクター」です。今回は僕がディレクターとしてお客様と接する際に気をつけていることや、実際に行っていることを書いていきます。
はじめに
僕は肩書きを聞かれた際は「Webデザイナー」と名乗っていますが、「Webディレクター」としてお客様と接する機会も多く、この業界でのキャリアもWebディレクターが最初でした。
それと、ディレクションに関する記事は今まであまり書いてなかったので、自分の中に貯まった「ディレクション術」を、今後数回に分けて記事にしていこうと思います。
これから記事にしたためる事は、僕が今まで経験して身につけた「個人的なテクニックや気付き」です。僕のやり方になるので、他のディレクターの方と手法や考え方が違う部分も含まれていると思います。
そう言った個人のやり方がどこまでお役に立てるかわかりませんが、ご覧頂いた方のお役に立てれば幸いです。
Webディレクターに求められるスキルと役割り
まず、Webディレクターに求められるスキルを挙げると、一般的には以下のようなスキルが求められると言われます。
- コミュニケーション能力・交渉力
- プレゼンテーション企画力
- マーケティング能力
- 情報設計力
- プロジェクトマネジメント能力
- コスト感覚
- 情報収集力
- Web技術のノウハウ
※出展:ディレクション標準ガイド
ざっと挙げただけでもそれなりの数になりますね。改めて見返しても求められるスキルの多さもありますが、「幅の広さ」に驚かされます。とは言え、ディレクターはこれらのスキルを全て持っていないと出来ない職業という訳ではありません。
Webディレクターは、これらWeb制作に関する「幅広い知識やスキル」を元にして、お客様のWebサイトを「公開まで導くこと」が主な役割り(仕事)となります。
重要と考えるのは「コミュニケーション能力」
これらのスキルの中でも、ディレクターが最も大事にしなければならないのは「コミュニケーション能力・交渉力」だと僕は考えます。
そう考える理由として、「Webサイトを公開まで導く」ためには、お客様(ご担当者)や多くの関係者(他部署の担当者、担当者の上司、社長)、社内外の制作スタッフなど「複数の人物」と連携しながらゴールを目指す事になるからです。
少なくとも自分以外の誰かが制作に関わる以上、独断で制作を進める事は出来ませんので、制作に関する取り決めや、連絡事項、スケジュールの共有など、関係者との「情報共有」を行って円滑に制作を進めるためには「関係者との連携が必須」となります。そういった点から、制作におけるあらゆる場面でディレクターには「コミュニケーション能力」が求められると言えます。
この記事内でのコミュニケーションとは「会話や連絡ツールによる関係者とのやりとり」と定義します。
コミュニケーションを取る際のディレクターの立ち位置
では、実際にお客様(ご担当者)とディレクターとしてコミュニケーションを取る際、まず最初に考えることが「自分の立ち位置」です。ここで言う立ち位置とは、その案件での「自分の居場所」と言うことです。
Web制作を行う際、ディレクターは基本「制作会社側の人間」です。お客様と主にやり取りを行う場合もその立ち位置は「制作会社側」にあります。

次に、双方の「窓口」としてコミュニケーションを取るのはディレクターとお客様になりますが、実際はそれぞれの側に複数の関係者が存在し、内部の関係者とのコミュニケーションの結果も含んだやり取りが行われるので、単純な「二者間だけのコミュニケーション」で完結していないのが実情です。

この際、双方の立場を主軸に主張を展開していたのでは、うまくコミュニケーションは取れず話は平行線を辿るばかりです。最悪は制作がストップすることもありえます。こういった状況になる前に、ディレクターは双方の間に立って「コミュニケーションの要」になる必要があります。

ディレクターは出来る限り「案件の中心」に立って、関係者全員と「中立的な立場」でコミュニケーションを取ることが理想だと考えます。
中立的な立場に立つことで、どちらか一方の立場に偏ることなく情報を処理できるので、双方の意見の調整が行いやすくなります。
お客様とのコミュニケーションで意識しているポイント
次に考えるべきことはコミュニケーションの目的です。この目的というのは「関係者との信頼関係を構築すること」だと僕は考えます。(主にお客様との信頼関係の構築とします。)
とはいえ、単純にお客様と「仲良くなる」ことが関係を築くことでは無く、あくまでも目的を達成させるために、「対等な立場」で作業を進めるための信頼関係を構築するということです。したがって、淡々と一方的に連絡事項を伝えるだけや、従属的に相手の意見を聞き入れることが「信頼関係」とは言えません。
以下に上げる項目は、僕がお客様とコミュニケーションを取る際に実施していること、意識をしているポイントです。
意識しているコミュニケーションのポイント
- 相手の状況を推し量る
- レスポンス(返信・返答)を早める
- 専門用語を出来る限り使わない
- 冷静に話を聞き、正しく理解する
- 単なる否定や拒否をしない
- 伝えるべきことは伝える
- 1.相手の状況を推し量る
-
どのお客様であってもWeb制作の事だけに時間を割ける訳ではありません。連絡を取った際、仕事の最中で手が離せない事は普通にあります。このような状況では連絡は取りにくくなりますし、時には邪魔をしてしまう事もあります。
当たり前のことですが、連絡をする際「今連絡をとっても大丈夫か?」「連絡方法は適切か?」といったお客様の状況に対する配慮をするようにしています。
また、連絡のすれ違いを極力無くすために、(出来る限り一番最初のやり取りで)「連絡が確実に取れる時間帯や曜日」を必ず確認するようにしています。
- 2.レスポンス(返信・返答)を早める
-
主にメールなどでやり取りをしている際、連絡を受けてから出来るだけ早いタイミングで返答(回答)を行うことを心掛けてます。(状況的に出来ない場合もありますが…。)
自分の対応を早くして、やり取りにかける時間が短くなれば、そのメールでの確認事項に対する意思決定の期間も短くなります。お客様からの返答が遅くなったとしても、返答を待っているその間に自分の作業を進めておけば、わずかでもスケジュールの余裕を作ることにつなげられます。
また、お客様が「待たされる時間」が短くなれば、「質問が放置されていない」といった「安心感」にもつながるので、お客様との関係性も良好になりやすいです。
- 3.専門用語を出来る限り使わない
-
制作現場での会話では「専門用語」を使うことがありますが、お客様に対してはなるべく使わないようにしています。
日常的に使っている専門用語は意味を知っている人同士の会話では通じますが、お客様には「よくわからない単語」となる場合が多いので、こちらが伝えようとしていることが伝わりません。
言葉の意味を理解をしてもらえていない状態で一方的に言葉を投げかけているだけでは、コミュニケーションを取っているとは言いがたいですね。
- 4.冷静に話を聞き、正しく理解する
-
制作をしている際、お客様から対応出来ないようなご要望やお話をされる時が稀にあります。話を聞いた側からすればとっさに「出来ません」と返答をしがちになりますが、よく話を聞き直し意図を掘り下げてみると、実はすごく単純なことをお願いされているだけだったと言うこともあります。
お客様は伝え方が上手な方ばかりではありませんので、自分が知っている(聞いたことのある)言葉だけで何かを伝えようとすることがあります。
そんな時、まず自分自身が冷静になり簡単なヒアリングを行って「要望の真意」を聞き出して理解するようにしています。
- 5.単なる否定や拒否をしない
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要望に対して「出来る・出来ない」の判断をすることは重要ですが、単純に「出来ません」の返答だけで終えてしまうと、お客様としては要望を「一方的に拒否された」という印象が残ります。
重要な事は「出来ない」と単純に切り捨てるのではなく、お客様の考えを実現するには「どういった条件があるのか?」「どういった作業が必要なのか?」といったことを一旦は検討するべきです。
こういった場合、僕は「要望の課題」を把握し、代替案の検討をするための時間(大体1〜2日程度)を頂くようにしています。検討した結果、対応が出来ない場合は「対応出来ない」ことを理由とともに伝えますが、「代替案」が用意出来る場合はそれを返すようにしています。
- 6.伝えるべきことは伝える
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お客様とのやり取りを行う中で、どうしても「伝えにくい(反論しにくい)こと」も必ず出てきます。
例えば、サイトデザインの修正で実施すれば全体の(見た目の)バランスが大きく崩れてしまったり、デザインルールに基づく構築の中に「部分的な特例」措置を取ってほしいという要望、サービス内容を逸脱する要望(見積もりに無い追加作業)など…。
挙げれば多数ありますが、こういった事例に対しても、制作を担う立場としての「見解」と「代替案の提示」は必ず行うようにしています。
「言いにくいことなので言いたくない…。」では無く、お客様にとっての「不利益や間違い」はキチンと進言して、理解を促すことがとても重要だと僕は考えます。
誰も間違いを起こしたい訳ではありませんので、言いにくいことであっても、伝えなければならないことはキチンと伝えましょう。
主なコミュニケーションツールのメリット・デメリット
最後は、利用する「コミュニケーションツール」についてのことです。お客様や社内スタッフといった関係者と連絡を取る手段は複数ありますが、僕が利用しているものは以下です。

これらの手段は、案件によってどれを主なツールとするかケース・バイ・ケースですが、この中でよく使うのは「電話、メール、訪問」の3つです。
昔からある定番の方法なので今では時代遅れな印象ですが、これらの方法についてはどのお客様でも普段から使われている方法でもあるので今でも普通によく使うツールです。(訪問はツールでは無くて手段といったところですが…。)
これらの3つについて、僕が感じるそれぞれの「メリットとデメリット」を書いていきます。
電話のメリットとデメリット
電話の一番のメリットは、「要件をすぐに伝えられ、その場で回答が得られること」だと僕は感じてます。(質問の内容によっては回答いただけないこともあります。)あとは、メール内容の補足を行うなど「補助的な説明を伝えたい時」に使っています。
ただ、前述のポイントでも書いていますが、担当者様の状況を考えずに電話をすると、ただ迷惑になるので緊急性が高い時に使うようにしたいですね。(電話は「人の時間を奪う」側面があることも忘れずに。)
メールの補足として使うについては、メールに伝えるべき要件と意図を書いて、説明を不要にすることが大前提ですが、どうしても文章だけで伝えきれない、または長くなりすぎる場合などは、タイミングを見計らって使う事はあります。(長々書いても伝わらないのでは労力も無駄になり、余計な時間がかかります。)
メールのメリットとデメリット
電話と対照的なのがメールです。こちらは相手の状況に関わらず連絡を送ることができます。(相手が不在であっても送るだけならできます。)
それと、メールと電話でのコミュニケーションの大きな違いは「伝えた内容が残る」ところですね。電話など「会話」が主体の場合「言った、言わない」といったことがたまに起きますが、メールはこういった事案を防ぐには適している方法だと言えます。
僕の使い方としては、電話で担当者様と打ち合わせを行った後に「簡易的な議事録」として担当者様、関係者の方を含んで送信し、忘れてはいけないことや、自分自身が認識している事を「言語化」して認識合わせに使います。(議事録をメール本文に長々書くなら、Googleドキュメントなどを使って共有するのもいいですね。)
メールのデメリットとしては、内容を確認するタイミングが「相手の状況に委ねられる」、「見ていない(確認漏れ)」など、別の要因でコミュニケーションが止まる事もあります。また、書いた内容が上手く伝わらず、意味の取り違えが起こることもたまにあるのでその点は注意が必要ですね。
訪問のメリットとデメリット
訪問の場合直接顔を合わせての会話になりますから、相手の「感情」がよりわかりやすく、比較的相手の「ホンネ」が引き出しやすい印象があります。(あくまでも個人の感覚です。)
また、実際に会うことで「お互いに具体的な人物像が明るみになる」ので、前述のメールや電話だけのやり取りよりも、信頼関係を築くきっかけに結びつけやすいです。
メールは文章のみの機械的な印象(声も顔も見えない。)、電話では声だけしか聞こえないので、どちらの場合も「会話をしている人物像」が見えにくい状態です。その状態で「相手を信用する」ことが難しいのは想像できることなので、最も手間がかかりますが一度顔を合わすことは信頼関係を築くには必要な事でもありますね。
デメリットはやはり「時間のロスが多くなる」可能性がある部分です。
「事前のアポイント」や「スケジュール調整」、時には「資料の準備」なども必要になるため手間がかかることも多いです。また、遠方のお客様の場合「移動にかかる時間」も考えると、気軽に訪問出来ないケースもあります。
加えて、訪問の前の準備を怠ると、成果よりも「無駄にすること」が多くなる事もあり、メリットをあまり得られない場合もあります。遠方のお客様の場合、可能であるなら「テレビ会議」を利用することも検討して、お互いに「無駄にする時間」を減らすことも大切ですね。
今回のまとめ
- Webディレクターの役割りはWebサイトを「公開まで導くこと」
- 求められるスキルの中でも重要なのは「コミュニケーション能力」
- Webディレクターは「案件の中心」に立って関係者の意見を集約・調整をする
- コミュニケーションの目的は「関係者との信頼関係を構築すること」
- コミュニケーション手段のメリット・デメリットを知り、「適切に使い分ける」
今回はWebディレクターとして、「お客様とやり取りを行う際の心構え」的な話を中心に書きました。つまり、コミュニケーション準備編といったところです。
最近はコミュニケーションの為のツールもたくさんあるので、「効率化」も図りやすくなっていると言えますが、昔から変わっていないのは、今でもWeb制作に関わっているのは「人と人」であること。相手との信頼を築くことは非常に重要であることに変わりはありません。
人と人との信頼関係は、日々のやり取りを積み重ねた上に成り立つと考えますので、些細なことでも誠実に対応することが「コミュニケーション」の第一歩だと思います。
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